サービス・プロバイダーにとって、導入する機器のネットワーク・リソースを出来るだけ無駄なく、最大限に活用してサービスを提供することは、ビジネス上非常に重要なことです。
オープン ネットワーキングとディスアグリゲーション(分離)という考え方は、ネットワークハードウェアとソフトウェアのバイヤーにとって長い間目標となってきました。DriveNets のようなイノベーターが何年も前からその技術を提供していたにもかかわらず、市場での信頼性を高めるのに何年もかかりました。その信頼が、今ようやく実現したのです。
2022 年 3 月にバルセロナで開催されたモバイル・ワールド・コングレス (MWC) では、オープンなディスアグリゲーション (分離型) システムやクラウドネイティブ技術に関する議論が発表の中で多く交わされました。通信業界は、プロプライエタリで垂直統合されたシステムの時代を超えたことは明らかです。共通のテーマやトピックとしては、オープンな無線アクセスネットワーク(RAN)、クラウドネイティブのソフトウェアオーケストレーション、コンテナベースのサービス、Kubernetes などがありました。実際、楽天シンフォニーは、事業者ネットワーク向けのクラウドネイティブな管理・開発ツールを提供する Robin.io の大規模買収を完了し、こうしたアイデアを打ち出しました。
なぜ、このトピックがこれほどまでに盛り上がっているのでしょうか?まず、ディスアグリゲーションの起源と、それがどのように市場に出てきたかについて説明します。
ディスアグリゲーション型のアプローチが初めて大きく注目されたのは、2012年、標準化団体 ETSI (European Telecommunications Standards Institute) が、通信事業者がネットワーキングとサービスの展開手法をクラウドネイティブ モデルに移行するための方法を定義するワーキンググループを結成したときでした。SDN (Software Defined Networking; ソフトウェア駆動形ネットワーキング) や NFV (Network Function Virtualization; ネットワーク機能仮想化) と呼ばれるこの初期の動きは、旧来のネットワーキング機器を大量に導入している大手通信事業者の注目を集めるまでに時間がかかりました。
ディスアグリゲートされたクラウドネイティブ インフラストラクチャ モデルでは、ネットワーク事業者はネットワーク オペレーティング システム(NOS; Network Operating System)などのソフトウェア要素をハードウェアから分離することができ、COTS(Commodity off-the-shelf; 汎用) ハードウェアの使用も可能です。そして、コンテナや Kubernetes などのクラウド開発ツールを使用して、分散インフラ上で拡張可能なアプリケーションを構築することができます。このアプローチの主な利点は、規模の経済を利用した OPEX (運用コスト) と CAPEX (投資コスト) の削減です。
クラウドネイティブとディスアグリゲーションのもう一つの大きなメリットは、サービスの俊敏性と自動化です。これは、ソフトウェアを使用してサービスをより迅速に立ち上げ、管理する能力です。このモデルは、SD-WAN(Software Defined Wide Area Networking) 市場で初めて実証され、COTS ハードウェア上で動作するソフトウェアベースのネットワーキングサービスの提供を可能にすることで、企業ブランチオフィスのルーティングを刷新しました。企業のエンドユーザーとネットワーク事業者は SD-WAN を受け入れ、事業者ネットワークのコアからエッジまでのあらゆる部分で同じイノベーションが必要であることを証明しました。
現在、同じ原則がサービスプロバイダのネットワーク全体にも適用されています。大手サービスプロバイダは、かつてないほどのネットワーク帯域幅と、急速に拡大するデジタルサービスを、コストを最小限に抑えながら提供するという課題を常に抱えています。これは、ハイパースケールやウェブスケールの事業者が、インフラ構築のためにソフトウェアやディスアグリゲーションを採用したのと同じ要求です。
要約すると、ネットワーク事業者が分散型クラウドネットワーキングモデルに求めているものは、以下の通りです。
DriveNets のようなイノベーターが何年も前からディスアグリゲーション型のクラウド ネイティブ ソリューションを提供しているにもかかわらず、サービス プロバイダの適応は遅かったと考える人もいます。オペレータ側の言い分としては、サービス プロバイダのネットワークは複雑で大規模なため、イノベーションをネットワークに広く展開するには何年もかかるというものです。
また、サービス プロバイダは一般的にリスクを避けがちであり、既存ベンダーとの長期的な関係を崩すことは困難です。しかし、より優れた俊敏性を低コストで実現するために、コストの改革が急務となっている今、考え方が変わってきています。その証拠に、既存のネットワークベンダーでさえ、クラウドネイティブ ソフトウェアとディスアグリゲーション技術の採用に舵を切っています。
サプライヤ側では、主要な既存ベンダーは好ましいものを手にしているため、変化することに消極的でした。従来のネットワーキングモデルでは、垂直統合されたソリューションが独自のハードウェア上で提供され、マージン(とコスト)を押し上げていました。長期にわたって市場での地位を維持してきたネットワーキングのリーダ企業たちにとって、この状況を変えることに抵抗があったのは明白です。
しかし、ディスアグリゲーションの成功が証明されたことで、同じモデルを採用しようとする動きが既存ネットワーキング企業に見られるようになっています。ネットワーキング業界のリーダーである Cisco 社は、ハードウェアのビジネスモデルをルーツとし、当初はディスアグリゲーションという考えに消極的でしたが、サービスプロバイダーからの強い要望を受けて同モデルを受け入れる方針転換を行いました。シスコは 2018年、自社の NOS をアンバンドルし、顧客がホワイトボックスなど他のベンダーのハードウェア上で彼らの NOS を実行できるようにしました。この事実は今でこそ広く語られているが、シスコがサービスプロバイダー界からのニーズに応えていた証左と見ることもできます。また、サービスプロバイダ ネットワーク分野の大手である Juniper Networks 社も、業界標準のハードウェア上で動作する OS (Junos) を販売しています。
たとえ革新的な製品が市場に出てきたとしても、現状を手放すのは決して簡単なことではありません。予測よりも時間がかかっているという意見もありますが、市場がこの方向に進むことは明らかだと思われます。
2012 年から 2022 年までの丸10年の違いは、オープンでクラウドネイティブなネットワーキング技術とインフラが成熟しただけでなく、今や市場もそれを受け入れているということです。AT&T、Deutsche Telekom、Telefónica、Verizon などの大手グローバル通信事業者は、分散ソフトウェアとコモディティハードウェアを使用して、クラウドから分散型ネットワーキングサービスの構築に取り組んでいます。
AT&T による DriveNets の採用と展開は、現在、この市場の発展における重要なランドマークとなっています。2020年、AT&Tは、Broadcom、DriveNets、UfiSpaceの技術ソリューションを組み合わせたディスアグリゲーション型コアルーターに移行する、業界初のグローバルサービスプロバイダーとなることを発表しました [1] [2]。当時、大手サービスプロバイダがインフラの重要な部分をクラウドモデルに移行することは、大きなな出来事と見なされていました。
現在、大手事業者によるクラウドネイティブ、ディスアグリゲーションソリューションの採用に関する新たな発表が日々行われており、私の予想では、イノベーションのペースは加速していくと思われます。インフラ構築におけるクラウドネイティブ アプローチは、今やコアから無線アクセスネットワーク(RAN)に至るまで、ネットワークのあらゆる部分の議論の中心になっています。
アマゾン、グーグル、マイクロソフトなどのハイパースケーラーが、多くのサービスの構築にクラウドネイティブアプローチを採用したのには理由があります。より安く、より速く、そしてより効率的になるからです。DriveNets は、このようなことが起こるだろうと以前から正確に予測していましたが、オペレーター市場は現在、このモデルを完全に受け入れています。
クラウドネイティブの自動化とディスアグリゲーションは、ついにテレコムの主流となったのです。それは、効率と規模の経済が常に勝つからです。我々は、業界が新しいネットワークとサービスをどのように展開するか、その考え方の全面的な大転換を遂げたと言えます。